別に君を求めてないけど

当時、東京に住んでいた私は、普通にサラリーマンをしながらも、
マンネリとした生活に変化を加えるために副業でアルバイトをしたり、
興味のある事を追求して将来に役立てようと、いろいろな事に挑戦していました。
その中の一つに、海外で生活してみたいという気持ちがあり、
それを実現する方法について調べていました。
単純に観光目的で旅行し、ビザ無しで滞在できる期限までいれば良いのかもしれませんが、それだと面白くありません。
滞在中は合法的に仕事もして、収入を得たい。
そう考えると、まずはコミュニケーションが取れなければ仕事なんてみつからないだろうと思い、英会話学校で勉強することにしました。
頭の中は海外で生活している自分を思い浮かべていましたので、彼女が欲しいとか、誰かと付き合いたいなんて微塵も考えていませんでした。
でも、そういうときに限って出会いは訪れるものです。
探し物をしていてもなかなか見つかりませんが、探していない時に見つかる事は良くある話です。
その時も、別に彼女を探していた訳でもありませんし、求めていた訳でもありませんでした。
英会話教室にて

私は、とある有名な英会話学校に申込み、3ヶ月ほど通う事にしました。
英語は全然話せませんでしたので、ビギナーコースから始めます。
そこは、1クラス3~5人で行うシステムで、
ネイティブで陽気な外国人が先生で教えてくれます(日本語もペラペラなんですが)。
そこで最初のクラスにいた女性(Hさん)がとてもインパクトのある人で、
外見も綺麗で美人だったのですが、服装がもう当時の私には衝撃的過ぎて忘れることが出来ませんでした。
彼女は、セミロングのパーマヘアに黒いキャップ、上は黒革のライダースジャケット。
下は黒革のタイトなショートパンツに黒い網タイツ、そして黒のブーツを履いていました。
初めて見た時は、「えっ!レイザーラモンか!」と心の中で思いましたが、
スレンダーな体形に良く似合っていたので、しばらく見入ってしまいました。
初日は自己紹介をしながら、基礎的な事を勉強したと思いますが、
Hさんは私より2歳年上なんだという事だけ覚えて帰りました。
その時は、特に進展もなく終わったのですが、
何故かとても興奮した気持ちで、また同じクラスになれたらいいなと思いながら次回のクラスを楽しみにしていたのでした。
不思議な関係

英会話学校には、平日は毎日通うことにしていました。
私は日中仕事をしていて、夜は電車掃除のアルバイトをしていましたので、
その間の時間、だいたい18時~20時が私の英会話教室に行く時間でした。
Hさんも、私と同じような時間で教室に来ていましたので、
同じ教室で勉強する事が多くなりました。
いつしか英語の勉強をしに行っていたはずが、
Hさんに会いに行くのが楽しみになってきました。
Hさんとも親しくなり、話の流れから住んでいる場所を知ったのですが、
私が夜のアルバイト先に向かう途中に家があるようでしたので、
教室が終わった後、Hさんの家に送って行くことにしました。
Hさんも喜んでくれて、「じゃあ、晩御飯作ってあげる」と言ってくれました。
私は嬉しくて「マジすか!」と叫ぶと、笑ってくれました。
ルンルン気分で彼女を家に送り、中に入ると「んっ!?」何やら人の気配が・・・。
私:「誰かいるの?」
Hさん:「うん。彼氏。」
私:「えーーーー!?いいの?」
Hさん:「いいの、いいの、そこに座って。」
と、ダイニングテーブルに案内されて座りました。
彼女は台所で何やら作り始めます。
彼氏は奥の部屋で、楽器の様なものをいじっている感じでした。
やがて彼女がテーブルに料理を運んで来て、「どうぞ」と言って一緒にダイニングテーブルに座りました。
私は、気まずい空気を感じながらも料理をいただきます。何か変な汗も出てきます。
Hさん:「大丈夫よ。彼は何も気にしていないから。」
と、話しはじめ
Hさん:「私たち、もうすぐ別れるの。」
私:「そう…..なん…..ですね……….」 (何て答えたらいいのか分からない)
Hさん:「彼は作曲もしてて、CMの音楽を作ったりしてるの。」
などと、彼氏の話をしてくるのでした。
私は、話を聴きながら無心で料理をいただき、ほとんど何も話すことは出来ませんでした。
料理も美味しかったと思うのですが、鼻をつまんで食べたような感覚で、味すら覚えていません。
食べ終わったら、「ごちそうさま」と言って、足早にその場を立ち去り、
夜のアルバイトへと向かいました。
バイト先での休憩中、今日の出来事を思い出しながら、「何なんだろうこの関係は。」と、しばらく考えてしまいました。
Hさん動く

あれからHさんの家には何度かお邪魔して、晩御飯をいただいていました。
彼氏とは初日以外会うこともなく、少し悶々とした気持ちの中、
英会話学校に通って3ヶ月目に入り、そろそろクラスも終わる時期になってきました。
Hさんと最後のクラスになった日、教室が終わった後、2人で居酒屋に行くことにしました。
そこで、Hさんから衝撃の話を聞くことになります。
彼氏と別れて引っ越しをしたこと。
仕事を辞めることにしたこと。
そして、アメリカに行くことにしたこと。・・・・・・・・・・
私は、てっきり彼氏と別れて自分と付き合ってくれると思っていたので、
拍子抜けしてしまいましたが、
よく考えれば、彼女が何のために英会話学校に通っていたのか、
私自身もHさんに海外で生活したい話をしていたこともありましたので、
当然の流れといえばそれまでですが、心に穴が開いた様な感覚がありました。
でもHさんが自分で決めたことなので、
尊重するべきと思い、2人でお互いの将来を祝って乾杯しました。
その後、Hさんを引っ越し先の家に送り、朝まで一緒に過ごし、最後の思い出を作ったのでした。
その後と結末

次の日の朝は、私は仕事でしたので早起きしました。
彼女はまだ寝ていたので、起こさないようにそっと出ていくつもりでしたが、
玄関を出ようとした時、Hさんが気付いて見送ってくれました。
顔を合わせるのは本当にこれが最後でしたが、
お互いに晴れやかな気持ちで別れることが出来ました。
私にとってはもったいない位の素敵な人でした。
数年後・・・
私のところにHさんから手紙が届きました。
もちろんAIR MAILです。
久しぶりに思い出し、懐かしい気持ちに浸りながら手紙を読むと、
Hさんは今、アメリカのフィラデルフィアという街に住んでいて、
現地のアメリカ人と結婚したとのことでした。
Hさんも海外に住みたいと言っていたので、夢が叶って良かったと思いまいた。
手紙を読んだ後、自分もいつか海外で生活することを心に誓うのでした。
結局3ヶ月程しか一緒に過ごせませんでしたが、
自分の人生に大きな影響を与えてくれた人でもありました。
出会いというのは不思議なものですよね。
これからも人との出会いは大切にしていきたいと思います。
ちなみに、私もそれから1年後、海外で生活することが出来て夢は叶ったのでした。

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