その一言が

中学2年生の私は正直、子豚ちゃんだった。

運動部の友達達と同じように食べてる帰宅部だった。そりゃ太る。

目立たず学校生活を送っていたけど、密かに好きな男の子がいた。

誰にでも隔てなく優しくてスポーツができる、かずくん。

中学生なんて単純なもので好きになるのに時間はそうかからなかった。

 

別に思いを告げようなんてこれっぽちも思っていなかったけど、なんでかバレた。

きっと知らずに目で追ってたりしてたんだと思う。

 

最悪だ

恋愛話が大好物な学生の中で好きな人がバレるなんて完全に死活問題である。

学生時代を過ごした人ならわかるだろう。いじり倒されるに決まっている。

一軍女子ならまだしもただの子豚ちゃんなのだから。

 

私も例にもれずはやし立てられ、からかわれた。

なるべくかずくんとの接触を避けるように行動していた。でも校内なんて広さがしれてる。

完全に避けきるなんて到底無理な話である。

 

ある日、男子たちがたむろしている廊下を運悪く通りかかってしまった。

しかも私は1人だ・・・。本当に最悪だ。

 

格好の獲物を見つけたとばかりにかずくんの周りの男子がはやし立てる。

「おい!中野!お前かずやの事好きなんだろー!」

「かずや、どうすんの付き合うのー?」

本気で聞いてる訳なんかない。ただのからかい。嫌がらせである。

無視してさっさと通り過ぎてしまおう・・・。きっとそのうち皆も飽きる。

 

そう思って足早に立ち去ろうとしたとき

「あんなデブと付き合うわけねーじゃん!」そして笑い声

好きな人の声だ。聞き間違えるはずもない。

あんまりな事実を告げる声に聞こえないふりをして足早に立ち去るしかなかった。

 

引きこもり

間もなく夏休みに入った。

私はというと初めてデブと言われた衝撃で完全に引きこもりである。

そして2学期が始まっても、まだ引きずって登校すらできなくなっていた。

 

そのまま時がたち卒業式にはなんとか出たけれど、なんとか入学した高校にも1週間も通えず引きこもりである。まあ良かった点でいえば、ショックで引きこもったおかげで細くはない程度まで痩せた。所詮、普通体系だけど。

 

さすがに高校にも行かずニートはダメだ・・・。

一念発起して知り合いの飲食店で仕事を始めた。

人に見られる仕事だったから小綺麗にはなった。

その間に何人かお付き合いしたりもしたけど、何で私を好きでいてくれるのか理解できなくてうまくいかなかった。

自信は喪失したままあっという間に二十歳になった。

 

届いた同窓会のご案内。悩んだ。すごく悩んだ。

私の心はまだ中2の夏に囚われている。

友達にだけ挨拶してさっさと帰ろう・・・。

そう思い参加した同窓会。これが私の復活点になった。

 

久しぶりのかずくん

皆が大学生活を謳歌してる中、がっつり働いていた私は正直浮いている。

やっぱ来なきゃよかったかな。なんて考えていると。

「え?中野?」

かずくんである。少しときめいてしまう私。我ながら単純すぎる。

「めっちゃ雰囲気変わったなー。いい感じじゃん!」

「今度、飲みにいこーよ!」

気づけば連絡先を交換して、飲みに行く約束までしている。

よく同窓会で初恋の人と・・・。なんて聞くけど気持ちがよくわかる。

昔好きだった人は今でも惹かれるもんなのだ。

 

飲み会

そして2週間後、まさかのかずくんと2人きりでの飲み。

どうしてこうなった?となりつつもちょっと期待している自分がいる。

かずくんは気さくでユーモアがある。話していてもやっぱり楽しい。

2人きりでの飲みだし、もしかして付き合えたりするかな。なんてワクワクしていた私は本当にどうしようもない。

 

近況報告なんかをしたりしているうちに中学生の頃の話に。

 

「そういえば中野ってなんで急に学校来なくなったの?」

 

とふと聞いてきた。なんてことないただの疑問のように。

私にとっては衝撃である。私にとってはとどめの一撃とでも言うべき発言を放った本人が覚えていないのだから。

 

「んー、なんでだったかな?行くのめんどくさくなったのかも」

なんて誤魔化すしかなかった。あなたの言葉に傷ついてなんて言う勇気なんて到底でなかった。

 

その後もしばらく飲み会が続き、帰り際。

妙にそわそわしだした彼との距離がつまって。

「あのさ。今付き合ってる人とかいるの?」

「いないよ」

「じゃあ俺とか・・・」

嬉しい気持ちが一瞬湧きあがったもののさっきの質問が頭をよぎりました。

「ごめん考えさせて・・・」

続く沈黙に気まずいままその日は別れました。

 

後日

彼とはなんとなく連絡しにくくなりそのまま疎遠になってしまいました。

友人から聞いた話では、どうやら当時から両想いではあったらしい。今となってはどうでもいい。

中学生独特の気恥ずかしさやからかわれた反応として、あの一言にいたったのだろうか。

あの一言さえなければ、覚えいて「ごめんね」って一言いってさえくれれば

きっと楽しい未来もあったのかもしれないと、ふと思い出す。

 

過去の私は少し救われて、今までを取り戻すように恋愛に傾倒するのはまた別の話。

y635著

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回は、学生時代に好きだった彼との物語を書いていただきました。

    中学時代、彼女は運動部の友人と同じように食べる生活を送っていて太っていました。
    彼女は目立たない生活を送っていましたが、ある日、クラスメイトのかずくんが好きだということが周りにバレてしまいます。
    周りにからかわれ、かずくんと距離を置いていた彼女。しかし、一人で廊下を歩いているところにかずくんとばったり出会ってしまいます。
    周りの男子にはやし立てられたかずくんの心ない言葉に傷つき、引きこもりになってしまった彼女。
    このままではダメだと思った彼女は卒業後飲食店で働くことになり、人に見られる仕事も相まって綺麗になっていきました。
    その後、同窓会で久々の再会を果たした2人。かずくんは彼女を傷つけたことはすっかり忘れ、彼女に言い寄ります。
    しかし、彼女はその後連絡を取らず、過去の出来事に思いを馳せるのでした。

    好きだった彼からの心ない言葉で傷つき、思い悩んだ少女の心の葛藤がよく表現されています。
    照れ隠しのため軽い気持ちで言った彼の一言、そのことを忘れ「ごめん」の一言がなかったこと、まさに題名通り「その一言が」あれば、なければと考えさせられる内容です。
    最終的には前向きに成長できた彼女の希望を感じさせ、明るい気持ちにさせてくれる作品です。

    検収者 kitsuneko22

    ⑰kitsuneko22-10

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