出会いは突然に・・・

大学卒業後、情熱に突き動かされて始めた海外移住。右も左もわからないまま走り続けた海
外生活三年目。新鮮だった毎日が少しずつ普通の日常へと変化していく中で自分の中の
「あぁ、彼女が欲しいなぁ。。。」
という切実な心の叫びが日に日に大きくなっているのを感じていました。
当時僕は日本食レストランで働いており、忙しい毎日の中で恋愛をしている時間もなく、も
ともと不器用な性格もあって中々良い出会いがありませんでした。そんなある日の仕事の休
憩時間、僕が客席に座って一息ついているといつも陽気なウェイターの女の子が僕に近づい
てきて言いました。
「あのさぁ、私の友達でアンタのことが気になっているっていう子がいるから携帯番号教えとい
たよ!!」
恋の始まりにルールなどないと言わんばかりに事後報告を何の悪びれもなくする彼女の言葉
に、僕の心はもちろん高鳴っていました。その日のうちに彼女と連絡を取った僕は、次の休
みの前の日の仕事終わりに彼女とカフェに行くことにしました。
当日の仕事中のテンションは読者の方々のご想像にお任せしますが、例えるならば、バーゲ
ンセールのスーパーの最前列で柵につかまり今か今かと開店を待ちわびる近所のおばちゃん
のテンションがです。
初デートからの順調な交際の始まり。しかし・・・
9時に町の中央広場で彼女と待ち合わせをした僕は、足早に待ち合わせ場所へと急ぎまし
た。
広場についたとき待ち合わせ時刻までにはまだ15分ほどありました。日本であれば、
初デートの場所に15分前について相手を待っているなんて当たり前。一方が待ち合わせ5分
前に来て「ごめん、待った?」「ううん、私も今着いたところ」なんてシチュエーションは
ごくごくありふれた光景ですが、この国でそんなことは皆無。待ち合わせ時間に10分15分
遅れてくるなんて普通です。そんなことにいちいち絶望していては身が持たないことを文字
通り身をもって知っていた僕は携帯電話(当時ガラケー)を開き時間を潰すことにしまし
た。
広場の教会の鐘が9時を伝える音にふと顔を上げると、ひとりの女性が僕のほうに近づ
いてくるのが目に入りました。暗がりの中でも分かるそのくっきりした顔立ちに、店に頻繁
に食事に来てくれる女の子であることはすぐにわかりました。そして彼女は僕が前から気に
なっていた存在。恥ずかしながら、彼女が来店するたびに僕はその存在が気になりチラチラ
見ていたのです。僕の心はこの国に来て以来最高潮に高まっていました。ここで気の利いた
セリフの一つでも言えれば2人の距離もぐっと近づくものですが、不器用な僕は平静を装い
簡単なあいさつの後、カフェへと向かうのでした。
その日は結局、カフェでコーヒーを飲んだ後若者たちで賑わうバーに向かい夜遅くまで2人
の時間を楽しみました。今となってはどちらがバーに誘ったのかは覚えていませんが、きっ
と僕のほうが彼女が自分に好意を抱いているという気持ちの余裕から誘ったのではないかと
思います。
お互いの中に、交際を拒否する理由などどこにもありませんでした。出会いはすぐに交際へ
と発展し、僕は念願かなって彼女をゲットすることができたのです。2人の交際は順調に進
んでいるように見えました。しかし、交際を続けていく中で乗り越えることの困難な2つの
大きな壁にぶち当たることになります。それは「言葉の壁」と「文化の壁」という近づけば
近づくほど絶望的に高く険しい壁。出会った頃には遠くのほうに霞んでいたそれは気が付け
ば2人の目の前に高くそびえ、行く手を阻んでいました。
「言葉の壁」エピソード

海外生活の中で日本人コミュニティーが存在する地域を除き日常会話の80%以上はその国
の言葉での会話となります。
僕が務めていたレストランには日本人スタッフがいましたがそれでもレストランの運営や業
務で日本語はほぼ使いませんでした。繁盛期や仕事が忙しく疲れているときなどは脳みそパ
ンク状態。もう頭にその国の言葉などは入ってきません。聞くのも話すのも億劫になってし
まいます。
そんなときは、家に帰ってゆっくり日YouTube番組でも観ていたいところ、でもそれを理
由に彼女との約束を断ることはできないですし、僕にそんな勇気はありません。
当然のごとく食事に出かけても会話が弾むわけもありません。何せ相手の言っていることが
理解できないうえに、自分が何を言っているのかさえ理解できない状態です。彼女にしてみ
れば楽しい彼氏とのひと時が、仕事で疲れて会話の通じない日本人と食事をする苦痛の時間
に変わってしまっているわけです。必然的に彼女は僕と話す気力を失い、会話が途切れ途切
れになり、あんなに楽しかったはずの2人の時間に気まずい空気が流れ始めます。僕のほう
も、脳みそパンク状態で会話に知らない単語が飛び出そうものならもうそこでギブアップ。
「それどういう意味?」と聞き返す気力もなく聞き流し、結局半分も理解できないまま「へ
ぇ、すごいねぇ」と生返事を返して話が終わる。こんなデートを何回か続けるうちに二人の
距離は少しずつしかし確実に離れていくのでした。
「文化の壁」エピソード

日本人にとってスキンシップというのは愛情表現の一つであり、人前でカップルがハグやキ
スをすることは公共の場では避けるべきであると位置づけられていると思います。
しかし、国が変わればスキンシップは日常のコミュニケーション手段の1つであり、初対面
の人どうしがあいさつ代わりにハグやフレンキスをするというのは日常の光景です。カップ
ルのキスなど信号待ちの車の中や病院の待合室、道端に設置されているゴミ箱の横など様々
な場所でそれは日常の風景としてみることができます。
日本に生まれ人生の大半を日本の教育・文化を受けて育ってきた僕にとって、頭でそれを理
解できていてもいざそのシチュエーションとなると無意識に心のブレーキが作動してしまい
ました。
日本では世間体や周りの空気を意識しながら他社との調和を大事にして生きていくことをよ
しとされています。ところが彼女からしてみれば、僕の行動が他人の目を気にして本当の自
分の気持ちを表現できずに生きていると映るわけです。この生まれ育った環境による考え方
の違いは、日常生活の些細な言動にも表れてくるもので、一緒にいる時間が長くなればなる
ほど2人の関係に大きく横たわっていくのでした。
悲しい別れと未来への希望

高くそびえ立ったこの2つの壁を2人は結局乗り越えることができませんでした。
付き合い始めて半年も過ぎたころから些細なことでの言い合いが増え始め、付き合い始めて
1年も経たない頃には別れることを選択していたのです。互いに気を使い合い、我慢し続け
た2人にとって別れは冷静なものでした。
しかし僕にとって外国で生きてくことの本当の意味を見つめ直す良い機会であったことはま
ちがいありませんでした。国際恋愛に限らず異文化で生きていく本当の魅力とは互いが文
化・言葉の違いに興味をもち、無条件に受け入れること。互いが主張しあいぶつかり合うこ
とは2人の関係にとって無意味であったこと。今思うと彼女との出会いがなければそのこと
に気づくことはできなかったのかもしれません。そういう意味でも彼女との出会いは僕の人
生においてかけがえのない大切なものであったと思います。
そして僕は今日もこの甘酸っぱい記憶と未来への希望を胸に楽しい海外生活を送ってい
ます。
hako著









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