出勤したら荷物を置き、デスクの上に煩雑に並べられた資料を整理する。
内容は成績評価の申請方法と期末考査の日程表。なかでも英語は最終日。
あぁおそらく多少簡単にしても平均点は下がるだろう、まあそんな優しさは必要ないけど。
未来があるのかよくわからない子供に英語を教え始めて、もう5年が経つ。
異動もなく、職員内ではベテランとして接される立場だ。
だからこそ周りの先生方の性格、価値観、考え方、いやなところ全てわかってくる。
そんな私は隣のデスクに座るヤツが嫌いだ。Aとでも呼ぼう。
物理を担当しており、同じタイミングでこの高校に赴任した彼。
名前も呼びたくない。
もし今、日本に法律が無くなったら何をするかわからない。
常に微笑ましい笑顔を周りに振りまき、流行の塩顔イケメンなのか生徒からの人気度合いが異常だ。
特にAが女子生徒から大量のプレゼントを受け取っていることは職員室でもよく話されている。
Aの話をする暇があるのであれば、さっさと目の前のテストの採点を進めればいいのに。
なぜ私がAをここまで嫌うのか。
それはあの笑顔である。
一日の全ての授業が終わった後、彼は貰ったプレゼントを職員室に全部持ってくるのだが、そのプレゼントを見て、口が張り裂けるほどニヤついた顔をするのだ。
ただニヤつくだけではなく、一つ一つ物色して様々なニヤニヤを披露し、しまいにはフフフなんて声も出す。
この環境で5年も働いてみろ、鳥肌すら出てこなくなる。
はあ。
少しイライラしてきた。
今日もAが帰ってくる前に、私はホームルームへと向かった。

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日差しが差し込んだある日。
私は英語のプリントを解かせている。
暇だ。
世の先生は、生徒が何かに取り組んでいる際にちゃんとやっているかチェックするための見回りをする。
ただあの時間は、ぶっちゃけあまりにも暇すぎる上で生まれるウォーキングタイムでしかないと私は思う。
事務作業がここ二日多かったからか、腰が痛く、少しストレッチ気味で見回りを始めた。
するとやけにコソコソする女子生徒がいる。
異常なほど私の動きを執拗に見てくる。
全国の子供たちに伝えたい、子供のコソコソはだいたい大人にバレてるぞ。
少し遠目で見ていたら、手紙を書いているようだ。
シナモンロールが描かれた水色の手紙を目の前にして、一生懸命に文章を書いている。
現代の高校生でも、直筆で手紙を書く子がいることに軽く驚いた。
まあ注意する気力も無かったので、今日は彼女の隣をスッと通って見逃した。
ーーーーー
放課後、隣のAは真剣にパソコンに向かい、成績のデータを記入している。
彼も一社会人なので、プレゼントに毎日現(うつつ)を抜かしているわけではない。
ただ真剣に仕事をする隣で、大量の紙袋が据え置かれていることが彼の良さを中和してしまう。
正直異様だ。
もう慣れた光景を受け入れて、仕事を進めようかと思ったところ、Aのプレゼント袋の一つに見覚えのあるものがあった。
あのシナモンロールの手紙である。まさか自分のクラスにもAのファンがいるとは。
それから彼女が生粋のAへのファンであり、毎日シナモンロールの手紙を書き、Aに渡していることが判明した。
どれほどの強い想いがあるんだろうか。虫唾が走るどころか、なぜこんなAがそこまでモテるのかいささか不思議であった。
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Aへの愛??を込めたシナモンロールの手紙をコソコソ書く姿は、その後何度か授業中に見られた。
そろそろ一度注意しておかないといけないのかと悩んでいた。
生徒への指導は正直得意ではない。ただこれで他の先生に気づかれて、学校問題になんかなってみろ。
自分のクラスだからこそ責任も降りかかるし、私への仕事が増えてしまう。
勘弁してくれと思った私は、あまり大事になる前に彼女を呼び出すことにした。
ーーーーー
英語準備室。
ここは便利だ。
ほぼ倉庫として扱われており、誰もこない。
そんな閑散とした部屋に彼女が来た。
沈んだ顔で、これから怒られることを予期しているのだろう。
10分ほどありきたりな指導を行い、彼女が反省している様子も伺えたところで、Aへの想いを聞いてみた。
なぜそんなにもAが好きなのか。Aのどこがいいのか。
そしたらまるでコンセントに差した猿のぬいぐるみかのようにAの良さをべらべらと喋る。顔の良さ、授業内の生徒との接し方、ほほえむ笑顔、優しさなどなど。
普段の授業にもこのぐらい精を出してくれればいいんだが。
ひとしきり彼女が話し終えた後、聞いてみた。
なぜ直接伝えない。伝えてみればいいじゃないか。
すると少し目線を下げてから彼女は答えた。
先生だから。私たちはどこまでいっても生徒だから。
だからどう思われるかわからない。気持ち悪いと思われたくない。
あんなにたくさんの人からプレゼントを貰えて、ほんとに喜んでくれているかわからない。
けど大好きだから、せめて手紙だけは渡してる。
ーーーーー
人の想いはこんなにも届きづらいものなのか。
ただ直接伝えないだけで、こんなにも印象が変わるのか。
あの虫唾が走るほどのニヤニヤした笑顔をこの子たちは知らないのか。
生徒と過ごす時間が増えていくにつれて、生徒から学べることも多い。
ただ自分がアホらしいと思っていた恋愛沙汰で学ぶ機会が訪れるなんて思いもしなかった。
何を思ったのか。
私は彼女に他言無用の約束ができるか確認し、それでも不安だったために簡易的な契約書まで書かせた。
そして彼女が知らないAの職員室での過ごし方を全て話した。
全てを終えた後、彼女から伝えられた。
先生、よく見てるんですね。
うるさい、気持ち悪い。
ただ隣だから目に入るだけだ。
そんな愚痴をぐっとこらえた。

===
彼女のシナモンロールの手紙を書く姿はもう見なくなった。直接想いを伝えたのか、また想いの寄せ方を変えたのか、わからない。
というかそもそもそこまで興味を持っている自分もつくづくバカだなと思う。。
そんなことを考えていたらAが話しかけてきた。
どうしたんですか?へぇーそうだったんですか。
良かったですね。すごく嬉しそうですよ。
彼には愛想笑いを向けたが、心は少し微笑んでいた。
やっぱり言葉で直接伝えることが、人間にとって一番らしい。
Aに虫唾が走ることは伝えられないがな。
nhsyt著

コメント
コメント一覧 (2件)
pr
nanashirodesuさん
2記事目の投稿して頂きまして有難う御座います。
それでは検収をさせて頂きます。
今回の作品は、高校の先生達が職員同士と生徒との関係性の中での正直な気持ちを記事にして頂きました。
彼は、高校で英語の担任を務めて既に5年が経ちました。
ごく普通の高校教師と思われている彼にとって生徒との関係も普通の教師と生徒であり、それが当たり前のように思っていました。
ところが彼の隣のデスクに居るAさんに関しては彼の常識が通用しない存在です。
ハッキリ言って空気を読めない「KY」ナルシストと言った塩顔のイケメンなのです。
そのAは物理を担当しており、彼と同時にこの高校に赴任しました。
しかし、Aは女子生徒に人気があり何時も大量のラブレターまがいのプレゼントを貰うのです。
しかも「KY」の本領を発揮して、あろうことか職員室でそのプレゼントをこれみよがしに持ってきて披露するのです。
そんなAに関して彼は自分のクラスにもラブレターを送った女生徒を知ります。
これから立派な社会人となって貰いたい彼女に担任として、あるとき2人だけでA先生の幼稚さを諭し彼女には社会人として活躍する伝を教えます。
男女の出会いの中で生徒と教師の出会いは生涯影響を与え合う事に成ります。
生徒が社会人となって見本となる教師像を生徒達に教えられてこそ立派な教師であり人生の先輩なのでしょう。
少し工夫されら男女の出会いになって読者にも興味を惹くことになります。
ありがとう御座いました。
それでは今回の検収はこれにて完了と致します。
次回の投稿記事も楽しみにお待ち致します。
井上保夫